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侵攻編 2
我輩は悪の帝王である。
今、我輩はアジトで電話をかけようとしているところであった。
「あれ? 帝王様? 電話ですか? どちらに?」
ふと、通りかかった戦闘員が言う。
その質問に、我輩は不敵に笑った。
「あれを見よ」
そう言って我輩はアジトの奥を指す。
そこには小学生くらいの小さな男の子と怪人ニオーゾーがすやすやと眠っている姿があった。
「あの子は?」
「ふっふっふ。ニオーゾーがさらってきたのだ」
「なんとッ。珍しく本当に悪の秘密結社っぽいッ」
「そうであろう。そうであろう」
「では、電話というのは、まさかッ」
「あの子の親に電話するのだ。脅迫だ」
「おおッ。ますます悪の秘密結社っぽいッ」
「そうであろう。そうであろう」
そう。
あれはちょっと前のこと。
不意に怪人ニオーゾーが子供を連れてきた。
「どうしたのだ。さらってきたのか?」
我輩が尋ねても、ニオーゾーは答えない。
「なるほど。悪の組織らしく、悪の英才教育をして将来の幹部候補にしようと言うわけか」
我輩は察するが、しかしニオーゾーは首を横に振って、何も答えない。
「なんだ? では、多少古臭い戦術だか、誘拐して身代金というわけか」
やはりニオーゾーは答えない。
らちがあかない。
「はふふふ。……間違った。ふははは。おい子供。貴様、無事に親元に帰れるとは思わんことだ」
我輩はもう、直接子供に告げた。
「帰れなくてもいいよ。だって、僕のパパとママは2人とも仕事ばっかりで、全然家に帰ってこないんだもん。僕はどうせ、パパとママの邪魔でしかないんだもんッ。もう、僕、家になんて帰らないんだッ」
子供は言った。
「「…………………」」
我輩はニオーゾーと顔を見合わせた。
ニオーゾーは悲しげに、ただ、うなずいていた。
それが1時間ほど前のこと。
「……と、いうことだ」
そう。我輩は今からあの子の親を脅迫する。
『あの子を返して欲しくば、次の休みに家族みんなで楽しく出かけるのだ』と。
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