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帰還
月曜日の夕方。随分日の沈むのが早くなった、茜色の西の空を窓ガラスが写している。
りんはソファに丸くなって寝ていたが、遠くから聞こえて来る車の音に耳をすませていた。
やがて、近づいて来た車は家の前で停まり、よく知ったリズムの足音がして、玄関のドアの開く音がした。
それまで丸くなって寝ていたりんは、背伸びをすると、ソファからとんと床に降りた。大きく長い尻尾を振りながら玄関へ走る。
「ただいまー!あー、忙しかった。二人ともお土産だよー!小百合ちゃんにはご当地サイダー、和香ちゃんは小注文通りたこ焼き煎餅買ってきたよ」
玄関から威勢の良い声が聞こえ、泉が帰宅した。
小百合と和香が玄関まで出迎えたが、歩き方はまるで二体のゾンビのようだった。
「あれ?どうしたの二人とも。なんだか元気ないわね」
廊下の照明はついているというのに、小百合と和香の表情は闇の様に暗かった。
「スーパーの総菜が、あんなに油っこいものだとは知りませんでした」
小百合が消え入るような声で言った。
「小百合お姉ちゃまが、揚げ物ばっかり買うカラだヨ」
和香も目の下にくまができている。
「どうしたの二人とも。口から魂が半分で出ちゃってるみたいになっちゃって?」
ふたりの妹達は自分たちが自炊に向かないこと、三日間の食生活が如何に悲惨なものだったかを長女に説明した。
「うーん、小百合ちゃんがちゃんとご飯作りますって言うから安心してたんだけどね。まあ、二人とも自炊には向かないのかな。ここでささっとご飯作ってあげたいのだけど、私も出張帰りで疲れてるから今から何か作る気にもなれないのよねー」
妹二人は更にうなだれた。
「あ、そうだ!五十嵐ラーメンに食べに行こうか!」
泉のその言葉を聞いた途端、小百合と和香の顔がパーッと明るくなった。
「五十嵐ラーメン、その手がありましたわ!!」
小百合が膝を叩いた。
「うち、マーボーラーメンがイイ!」
小躍りする和香。
泉の提案に小百合と和香は気色ばんだ。
「小百合ちゃん、車お願いね」
「合点承知の助でございますわ、お姉さま」
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