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しかし泉は動かない。皿は泉の頬をかすめ、壁に当たって割れた。
泉はじっと食器棚の方を見ている。
「は、初めてみたぜ、こんな事がほんとにあるんだなあ」
村山は、震える声で言った。
懐中電灯の色で良くはわからなかったが、この時の顔色はさぞ青かったであろう。
小百合が背中に斜めにかけてあるバックをかけたまま前に回して口を開け、四角く薄い白いビニールシートを取り出し、床に広げた。
畳二枚ほどの大きさがあり、円形に文字が書かれている。
小百合は村山の手を引き、そのシートの文字の中に立たせた。
「室内用簡易結界シート、建工護り三型です。霊から守ってくれますから、この中にいれば大丈夫ですわ」
という小百合の説明に、
「農協からクレームが付きそうな名前だな」
とシートの真ん中に立つ村山がつぶやく。
小百合はお札を数枚取り出すと、食器棚に向かって投げた。吸付けられるようにお肌は食器棚に貼り付き、扉を固定した。
「さーて、あなたは誰かしら?何故このお家にいるのかしら?」
泉が家の中をゆっくりと見回しながら言った。
(ここが私の家だから)
何処からか声が響いた。
「泉お姉ちゃま、あそこ」
和香が指さす台所の棚の前に初老の女性が立っていた。
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