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「しょうがないわねぇ」
泉は何やら小声で呪文を唱え始めた。十秒ほど唱えただろうか、胸の前に両手を出し、大きく横に開いて胸の前で手のひらを打った。ぱん!という乾いた音が室内に響く。
「清めの柏手」という手法だ。
柏手には、空間を清める力がある。泉は呪文により高めた自らの祓力を、柏手に乗せて室内全域に放ったのだ。
大抵の霊は、この柏手で力を削がれるか、おとなしくなる。弱い霊や念の場合は消滅することもある。
が、しかし。
何かに備えていた初老の女性は、キョトンとしていた。頭の上に?マークが見えた気がした。
(ねえ、何かしたの今?)
キョトンとしている女性を見て、泉、小百合、和香もキョトンとした顔になった。村山には女性は見えていないようだ。
「あら?」
泉が気の抜けた声を出す。
「おかしいわねえ、呪文間違えたかしら」
泉は再び胸の前で手を合わせ、呪文を唱え、大きく柏手を打った。
しかし、女性には何の反応もなかった。
「あらー??」
女性は食器棚まで移動すると、小百合の貼ったお祓い札をぺりぺりと剥がし始めた。
「うそ!協会特製のお札を霊が剥がしてらっしゃる!?」
小百合が黒縁眼鏡の奥の目を丸くした。
(早く出て行かないと、また皿を投げるわよ)
食器棚の皿に手をかけ、女性がこちらを睨んでいる。
室内用簡易結界シート、建工護り三型の上に窮屈そうに立つ村山が、
「どしたい、嬢ちゃん達?」
と、状況を把握するために恐る恐る声をかける。
無理もない。村山には女性が見えていないのだ。
何が起こっているか把握する術がない。
泉は右手で頭を掻いた。
そして村山を見てにっこり笑うと、
「てへ。このヒト祓えないみたいです。今日のところは、退散しま~す!!」
泉と和香と、小百合に手を引かれた村山は、転がるように建物を出た。
四人が外に転がり出たとたん、勢いよく玄関のドアが閉まり、内側からガチャッと音がして、鍵がかけられた。
村山が、少し考えた顔をして、そして口を開いた。
「なあ、嬢ちゃんたちは、ほんとに腕利きの祓い屋なのかい?」
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