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ただ、違和感はあった。放置されていた年月の割には室内の傷み方が少なすぎる。蜘蛛の巣も貼って、床も柱も埃で青くなってはいるが、経過した年月の割には綺麗過ぎる。
リビングの奥の対面型キッチンの棚に、3本のウイスキー瓶が並べて置いてあった。
「そうそう、このウイスキーをなんとかしなくちゃいけねえんだった」
村山が言うには、洋館と洋館が立つ土地の所有者はとうになくなっていたので、所有権を相続したその息子から、道路用地として国が買い取ったのだとのこと。
取り壊しは、国から補償費を貰った息子が、村山に250万円で依頼した。
取り壊しに際して「立ち合いはいいか」と尋ねたところ、必要なものは全て持ち出しているので、好きに仕事を進めてよいと返事を貰っていたそうだ。聞けば息子さんは全くお酒が飲めないそうで、台所のウイスキーは村山さんに全部差し上げるから、好きに飲んでいいとのことだった。
「俺は芋焼酎しか飲まんから、これは今日の駄賃だ。嬢ちゃんたちにやるよ」
村山は、取っ手のついたずんぐりした懐中電灯をカンテラの様に床に置き、ウイスキーの瓶の1本を取ると、腰に下げたタオルで拭き、泉に渡した。
カタン、と音がした。
食器棚の扉が、すっとひとりでに開き、中にあった皿が水平に、泉めがけて飛んできた。
泉のすぐ横にいた村山は、両手で頭を覆い、背を向けた。
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