出張

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出張

 「じゃあ、月曜日の夕方には帰って来るから、私が仕事に行ってる二泊三日の間、おうちの事お願いね」  三連休の初日、土曜日の早朝の山口家の玄関で、長女の泉(いずみ)は靴を履きながら、並んで見送る妹二人とゴールデンレトリバーのりんに言った。  「お姉さま、大阪までの道程、お気をつけて」  次女の小百合(さゆり)がきっちり腰を30度折って礼をした。  「お土産お願いネ。たこ焼き煎餅忘れないデネ」  甘えん坊の三女の和香(のどか)が両の手を目の前で組んで目をパチパチ。  大型犬のりんは顔を上げ、しっぽを左右に振っている。    迎えに来た市役所のワゴン車に乗り込み、窓から手を振る泉に、妹二人も手を振って見送った。  泉は大阪で開催される「鹿児島物産市」にスタッフとして同行する。  勤務先の市役所地域振興課の職員が風邪をひき、熱をだしたので、代わりに嘱託職員の泉に声がかかったのだ。  三連休を返上し、二泊三日の行程で大阪まで出かけ、大阪ドームで行われる鹿児島物産市のなかで、伊佐市のブースを受け持ち、特産物を売るのが仕事だ。  伊佐市の特産物「伊佐米」と「芋焼酎」の人気は高い。  年に一度の鹿児島物産市を楽しみにしている大阪のお客さんも大勢いるので、欠席する担当者の代わりに、嘱託職員ではあるが、明るく人当たりの良い泉が同行することになったとのことだ。  泉の乗ったワゴン車が、見渡す限りの田んぼに囲まれた道の向こうに、小さく消えるのを見送り、小百合と和香とりんは家に入った。  「さて、では朝食の準備をいたします。和香ちゃん、ちょっと待っててくださいね」  小百合は腕まくりをしてリビングと対面式になっているキッチンに向かった。
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