エピローグ

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「あなたはそのままでも優秀よ。今まで通りの灯子でいい。だから…」  お母さんがわたしの目を見据える。 「ちゃんと、気を付けなさい」  その表情は、叱咤する師のものであり、心配する親のものでもあった。わたしはその言葉に、素直に頷く。 「行ってきます」  わたしは玄関の引き戸を開け、外へと飛び出した。十二月の冷気がわたしの体を震えさせる。  少し前まで、この土地で共に仕事をした佐藤くんはもういない。また一人きりの仕事の日々が続いているが、わたしは寂しいとは感じなかった。  誰かがわたしの戦いを知ってくれている人がいる。どこかで共に戦う仲間がいる。それだけで、わたしの心に力が漲ってくる。  わたしは何のために恐怖と戦い、何のために脅威に立ち向かうのか。わたしは自分自身の戦う理由を知っている。  わたしの名前は不知火灯子。江戸時代末期より代々受け継がれし《除蝋師》の家系、不知火一族の末裔。  強く、誇り高い不知火敦子の一人娘であり、《あの力》に目覚めた指折りの《除蝋師》。  沢山というわけではないけれど、わたしには大切な人達がいる。その人達のために、わたしは夜の道を行き、戦い続ける。 (了)
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