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《あの力》があれば、わたしの大切な全てを守ることができるはずだ。
「また佐藤くんに手を繋いでもらったら?」
「茶化さないで」
いたずらっ子のように、お母さんはくすくすと笑った。
「お母さんが《あの力》を発現させたのは、いつ頃なの?」
わたしは無理やり話題を変えた。
「…そうねぇ」
わたしの肩に、お母さんは優しく手を置いた。
「灯子が産まれたすぐのことだったかな」
目を細め、お母さんは微笑んだ。
あと少しで丑三つ時という頃。わたしは自室で髪を結った。
いつものランニングシューズを履いていると、後ろからお母さんが声を掛けてくる。
「気をつけてね」
不知火家に代々伝わる、ピンクを基調とした装飾に彩られた《脇差》。わたしはそれをお母さんから受け取ると、左腕に帯で縛り付けた。シューズを履き終え、わたしはすっくと立ち上がる。
「《あの力》のことだけど」
お母さんは少し言いにくそうに口を開く。
「あれを使えなくなっても、焦ることはないわ。むしろお母さんはそれで良かったって思ってる。若いうちから強い力に目覚めても、それに頼り切っちゃうから。傲りが出てしまって、警戒が疎かになってしまうことだってある」
わたしは黙ったまま、お母さんの言葉を聞く。
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