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そんなことを聞いたのは、昼間の学校でのことがあったからかもしれない。普通ではない、平穏では済まない仕事を続ける理由。
わたしとは違う土地で仕事を続けできた同年代の同業者がこの仕事を続けるその理由に、わたしは興味があった。
「まあ俺は、この仕事を続けることが俺自身の存在理由みたいなもんだから。この仕事をやってれば、色んな人に俺の存在を認めてくれる」
存在理由。わたしはその言葉を胸中で反芻した。
「こんな俺でも、誰かの役に立ったり、何かの歯車として機能するなら、俺はそれでいいって思う。俺に選択肢はないから、これからもこうやって生きていくだけだ」
佐藤くんは寂しそうに笑ったが、わたしは素直に羨ましいと思った。何の迷いもなく言い切る佐藤くんが、格好良いとすら。
「でも、親御さんは心配してないの?」
「俺、親がいないんだ。親代わりになってくれた人なら沢山いるけど」
わたしの不躾な質問にも、佐藤くんはあっけらかんと答えてくれた。
「俺の身体には、《蝋魔》の《気》が少し混じってるんだ。普通の人より身体能力とか、治癒能力とかが段違いで高いんだよ。《気》に対する耐性もあるから、完全に《侵食》される危険性も少ない」
そんな特殊な体質の《関係者》もいるのか。わたしは素直に驚いた。
「生い立ちがちょっと普通とは違ったんだ。だから、こういう風に今も生きてる」
普通とは違う。佐藤くんの言葉には、普通でない者特有の重みがあった。
「不知火は、何でこの仕事やってんの?」
佐藤くんの事情を聞いたのだから、わたしはその質問に答えなければならないだろう。
「わたしは…そういう家に生まれたから…」
不知火という特殊な家、特殊な血筋。それを受け継ぐ家系に生まれたから。
「でもさ、敦子さんはお前がこの仕事やめたいって言っても、許してくれると思うぞ」
わたしは内心で感心した。佐藤くんはお母さんのことをよく理解している。
「わたしはお母さんのような人になりたい。お母さんの期待に応えたい。ただそれだけ。義務感とか、まあ、そういうのもあるけど…」
「ふーん。そうか」
佐藤くんの満足のいく返答だったのだろうか。わたしにはわからなかったが、佐藤くんはにこりと笑ってくれた。
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