補佐

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 それでも、わたしには佐藤くんが羨ましかった。誰かに認められ、自分のことをも認められる。自分の行き方をしっかりと見据えられる佐藤くんが、格好良いとすら思った。 「千尋、今日の放課後、空いてる?」  千尋は驚いた顔をしている。それも無理はない。今こうして、わたしが誰かを誘っている事実に、自分が一番驚いているのだから。 「…うん、空いてるよ。あたし、一度行ってみたかったカフェがあるんだ。そこ行かない?」 「…それはまた今度にしようよ。ちょっと、大事な話があるから」  話しながら、わたしは自分の正気を疑った。本当に話すつもり?自らに問うが、わたしの決意は揺るがない。  何かの衝動に駆られるまま、わたしは千尋と放課後の約束をとりつけた。  放課後、わたしは千尋と公園のベンチに座りながら子ども達が遊具で遊んでいるのをぼんやりと眺めている。  千尋は既にわたしが今から口にすることが、世間話なんかではないことを理解しているようだった。  わたしは改めて、自らに問う。本当に話していいのか、と。  その問いに理性で答えるのならば、話してはならないと言わざるを得ない。それでも、一度でもその選択肢を考えてしまった今では、そうしたいという衝動から逃れられることはできない。  わたしも佐藤くんのように、誰かから認められたい。自分のしてきたことを知ってほしい。もうこの気持ちは抑えられない。  空が灰色になり始める頃。わたしは公園のベンチに座りながら、千尋に《除蝋師》の仕事のことを話した。わたしが話している間、千尋は黙って聞いてくれた。  奇想天外で、突拍子もなくて、絶対に信じてもらえないようなことだということは理解している。それでも、わたしは千尋に聞いてほしかった。  お母さんから、仕事のことは他言してはならないと口止めされたことは一度もなかった。何故なら、それは説明する必要もないほどに当たり前のことだから。
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