補佐

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 全ての《関係者》が暗黙の了解として守ってきたことを、わたしは今、破った。《関係者》でない、一般人の千尋に《蝋魔》の存在、そしてそれを対処する人間がいて、わたしもその一員であることを話した。  全てを話し終えた後、わたしと千尋を静寂が包む。遊んでいた子ども達も、親に連れられて既に帰っている。 「そっか。灯子ちゃん、今まですごく大変な思いをしてきたんだね」 「えっ」  話した全ての内容を受け入れ、何の迷いもなく労ってくれる千尋に、わたしは心底驚いた。何かを言おうとするも、言葉が出てこない。 「どうしてだろう。幽霊とか、妖怪とか、わたし信じたことなかったのに、灯子ちゃんが言ってくれたこと…すごく当たり前のことのように信じられる。何でかな?」  そう言って、千尋はおかしそうに笑った。  《蝋魔》が頻繁に出現する土地の住人は、潜在意識で《蝋魔》の存在をぼんやりと認識していると聞いたことがある。わたしが《蝋魔》のことを話すことで、その存在をはっきりと理解することができたのかもしれない。  これも、神代町という特殊な町の影響なのだろう。 「灯子ちゃんって、みんなとちょっと違うから、そういうことが理由になってるんだろうね。…なんだろう、灯子ちゃんのこと、今までの全部、納得できるよ。なんか…すごく不思議な気分」  千尋はうわの空といった様子で、ぼんやりと顔を呆けさせる。 「どうしてあたしに話してくれたの?」 「それは…」  どう言えばいいのだろう。わたしは考えたが、今の気持ちを真っ直ぐ伝えることにした。 「千尋には…千尋にだけは、知っておいてほしかったから」  照れ臭さから、わたしは千尋と目を合わせられない。  膝に乗せていたわたしの手に、千尋は自分の手を重ねる。十一月の寒空の下、千尋の体温が伝わってくる。 「話してくれて、ありがとう。わたし、すごく嬉しいよ」  すごく嬉しいのは、こっちの方だ。わたしは込み上げる何かが零れ落ちないように、必死に堪えた。こんな時にも負けず嫌いを発揮してしまうなんて、全く損な性格だ。
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