仲間

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 自分の《除蝋師》としての勘だけを頼りに、わたしは田んぼが四方に広がる夜道を歩く。その後ろを、佐藤くんは黙ってついてくる。  積極的にコミュニケーションを図ろうとする佐藤くんにしては珍しく、家を出発してから一言も言葉を発していない。おそらく、《蝋魔》に対するセンサーをはたらかせているわたしに、気を使っているのだろう。  そこまでデリケートな作業ではないのに。会話もなく気まずいままだと、逆に気が滅入ってしまう。 「わたしのお母さんって、《協会》では有名人なの?」  気まずい雰囲気を変えるついでに、純粋に興味のある質問を投げかける。 「…ああ、そうだな」  突然の質問に佐藤くんは少し驚いた様子だったが、ちゃんと答えてくれる。 「あの人も色んな土地に顔出してるからなあ。敦子さん、けっこう家空けること、多いだろ?人柄も良くて人望あるし。まあ、何より…」  佐藤くんはそこで言葉を区切った。わたしは黙って先を促す。 「《あの力》が使えるってのが一番大きいだろうな。なんたって、歴代でも開祖を含めて数えるほどしか《あの力》が発現した《除蝋師》っていないらしいし。俺が間近で見たことあんのは、敦子さんとあと一人しかいない」  異形の化け物を《蝋魔》と名付けるきっかけにもなった、《除蝋術》の発現様態。火を灯した蝋燭の様にどろどろに《蝋魔》を溶かすその強力な術を、《関係者》は敬意を込めて《あの力》と呼ぶ。 「この神代町を敦子さんと不知火だけで任せてんのも、異例なんだよ。本来ならもっと《補佐》をつけなくちゃならないような土地なのに、《協会》は敦子さんとお前に頼りっきりだしなぁ。まあ、《協会》が慢性的に人手不足だから、しょうがないってのもあるんだろうけど」
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