もしかして:はじまりは今

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息を飲んだ同室者は、気まずげに、しかし心配の色を隠さないで挨拶を返してくる。 「ごめんね、昨日は部屋に閉じこもっちゃって……」 「あ、いや……あんなことがあったんだし、仕方ないだろ」 「やっぱり噂になっちゃってるよね……騒がせちゃって申し訳ないな……」 少し大袈裟なくらい落ち込んだ表情を見せれば、相手は慌てて陽叶は悪くないから!と、力強く言ってくる。 元々この同室者とは特別仲が良い訳でも、悪い訳でもない。 それなりに人気のある生徒なので、深入りせずに普通の同室者程度の付き合いに留めていたのだが、悪印象は持たれていないと再認識する。有り難いことだ。 「ありがとう。でも僕が至らなかったのが悪いし、同じ結果でももっと騒がせない方法ってあったと思うし……」 「陽叶……」 「僕、色々な人に申し訳ないな……会長様と僕なんかとの付き合いを応援してくれたり、黙って見守ってくれてた人だっていたのに」 正直、場を考えないあの頭すっからかん会長が悪い。と言いたくて仕方がないが、あくまでも周りの事を第一に考えて喋る。 時折微笑みを保っていられないとばかりに崩せば、相手は勝手に色々考えてくれる。 どうやら悲しみに同調して、会長に怒ってくれている雰囲気も感じた。 なんて良い奴だ。 素を見せないことが申し訳無くなってくるが、その分お前が困った時は絶対に助けてやるからなと勝手に誓っておく。 商人、基本手段は選ばないが、情には厚く不義理がない限りは恩は忘れない。 「それより堀内くん部活でしょ?頑張って来てね」 にっこりと話題を変える。 同室者、堀内からはきっと陽叶が辛くて話題を変えたように思われるだろう。 勝手な深読み大歓迎。 時間が時間だからと、心配そうにしながらも部屋を出て行くのを送り出す。
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