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撮られたのは、ホテルから出てくる写真。有名な女優さんと、彼。時間をあけて出てきたから、ツーショットじゃなかったのだけは、幸い。だけど、世間を少し騒がせるのには、十分すぎる起爆剤だった。
取材取材報道取材取材報道報道...
大変だった。自宅を特定されたから、引っ越しも余儀なくされたし。彼はもちろんだけど、マネージャーである、僕も。
芸能関係者である彼と僕、二人分の引っ越し先を見つけるのは大変だということ、それと、僕と一緒なら彼も大人しくするだろうとの意見があって、今、僕らは同じ部屋で暮らしている。
彼は『俺のせいでごめん』とさすがに申し訳なさそうに謝ってきた。だけど、僕が全く嫌ではない、むしろその逆だというのは、彼には内緒だ。
だけど、彼のその謝罪は、一連の騒動に関する謝罪ではないのだ。
「今回は、失敗したなぁ。まさか、撮られるなんて。」
彼は、僕に迷惑をかけたとは思って反省しているけれど、起こした行動については、全く悪いとは思っていない。
次は気をつけよう、と言って、彼はまたお酒をグラスに注いで、今度はちびちびと呑み出した。あいかわらず、僕に身体を預けているから、彼には僕の顔は見えない。よかった。今の僕はきっと、彼には見せられない顔をしている。
「あの女さ、三股かけてたんだよ。俺は二番目だってさ。」
そう言って、彼はケラケラと全然楽しくなさそうに笑った。写真を撮られて、判明した事実。もちろん、彼らは破局。
『ひどい女だよね。別れて正解。Oには、似合わないよ。』
本心は、言えない。だって、彼はその女が好きだったんだから。一度自分が心に止めた女性を悪く言えるほど、彼は非情ではないし、自分の落ち度をあっさり認めて暴言を吐くほど、彼はプライドが薄くもない。
「運が、悪かったんだよ。」
僕は、そう言う。思ったよりも硬い声が出ていて、少し焦る。彼は、ずっと、運が悪い。
本心は、言えない。心の奥にしまった秘密は、もっと、言えない。
「そう、だよな。」
渇いた声に、胸が痛む。今、僕が腕を回したら、彼を抱き締められる、なんて考えてしまって、心の中で慌てて首を振った。
「俺、女運ねぇよなぁ。なんでかな。」
はぁーあ、と大きなため息とともに、彼はまたグラスの中身を呑み干した。
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