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彼を初めて見たのは、高校の入学式の時。
『美しい』という言葉は彼のために作られたのではないか、というほどに整ったその容姿に、男女を問わず、みんな釘付けになっていた。
それでいて、彼には気取ったところがなかった。誰にでも分け隔てなく、フランクに接した。だから、彼は当然のように女の子にモテたし、学校中の人気者だった。
対して、僕は、所謂お調子者で、いじられキャラ。身を呈して場を盛り上げることで、なんとか居場所を作ってきた。人気者、だったと思う。だけど、彼は何も頑張らなくても、自然に立ち振る舞うだけでみんなに好かれているように見えた。だから、その頃の僕は、仲良くしているようには見えていただろうけど、彼のことが嫌いだった。
そんな気持ちが変わったのは、あの日だ。
なぜかは忘れたけど、彼と二人で作業をしていた。確か、文化祭の看板を作っていたんだ。僕はいつものように冗談を言いながら作業をしていたんだけど、彼は、唐突に言った。
「M、別に、無理して笑わせてくれなくていいから。俺、Mといるだけで楽しいし。」
彼は、花がほころんだように笑っていた。嘘を言っているようには、見えなかった。僕たちは静かに、でも、時々思い出したように面白くもない話をしながら作業をした。今までで、一番楽しい時間だった。
その日から、Oといることが増えた気がする。Oは何かあれば僕のところに来てくれたし、たぶん、僕もOを頼っていた。無理して場を盛り上げなくても、明るくしなくても、Oは僕に居場所をくれる。その、安心感は計り知れなかった。
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