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きっかけは、本当に些細なことだった。
「ごめん、M。俺、今日は先約があるんだ。」
彼は、本当に申し訳なさそうにそう言った。別に、どうってことはないはずだった。僕の『今日いっしょにカラオケに行かない?』なんて申し出は今突然言い出したことだったから、彼に用事があったら、無理なのは当たり前だ。
「そっか。じゃあ、また今度。」
僕はいつものようにふわっと笑って、言った。
なんてことないはずだった。だけど、僕の心はチクっと音を立てていた。
宙ぶらりんな気持ちを引きずったまま、放課後を迎えた。僕は彼ではない別の友人何人かが、ゲーセンに行くというので、それに便乗しようとしていた。
連れ立ってゲーセンに向かおうとしていると、Oの姿が、目に止まった。彼は、別のクラスの女の子と連れ立って、歩いていた。
「O、ついに彼女作ったんだな。」
「なぁ、Aさんなんて、学年一の美人じゃん。」
「さっすが、O。」
「てか、言ってくれないなんて、水臭いやつ。」
「明日、いじってやろうぜー。」
盛り上がる友人らとは対照的に、僕は、何も言えなかった。
そして、僕は気付いてしまった。
彼は今まで、僕の誘いを断ったことがなかった。だから、僕は初めて彼に断られて、ショックを、受けた。
そして、彼女ができた彼はきっと、これから僕よりも彼女を優先するようになる。
そう思うとなんだか、胸がミシミシと、嫌な音を立てたような気がした。
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