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それからの授業内容はさっぱり頭に入らず、チャイムが鳴って号令を終えるとすぐに、徹のところへ行った。
「あ、見つかっちゃった」
「当たり前でしょ! 何できたの?!」
「サプライズだよー」
「そういうことじゃないでしょ!」
それほど大きな声を出したつもりはないが、やはり動揺したクラスメイトとその保護者にあっという間に囲まれた。
「あのっ、松田莉人さんですよね?」
「はい、そうです」
「え、古内さんのお兄さん、なんですか?」
「いえ、父です」
「いやいや、そんなわけないって」
「面白いことをおっしゃいますねえ、さすが業界の方は」
「本当です。ボクが23のときの長女です」
徹はぐい、と李子の肩を引き寄せ、「ねっ?」と営業用の眩しい笑顔になった。
一瞬、水を打ったように教室内が静まりかえり、驚愕の大合唱になった。
まあそうなるよね、と予測はしていた。
しかし――
「お父さん、こんなことして仕事は大丈夫なの?」
耳元で囁くと、徹は苦笑した。
「大丈夫、とは言い切れないけど……嘘つきには、もうなりたくないなって思ったから」「あ……」
覚えていたのか。
「大事な人に、嘘つきって言われたくないから。ね?」
その優しい微笑は、確かに父・古内徹のもので、そして同時に、キラキラした夢を見せる松田莉人のそれでもあった。
[了]
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