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「ただいまー」
玄関で靴を脱いでリビングに入ると、予想外の人物がキッチンに立っていて李子は絶句した。
「あ、お帰り! モモちゃん」
色白の、顔の小さい青年――に、見える。
今は縁のあるメガネをかけているが、外すと黒目がちで、リスやハムスターを思わせる。
かわいい、と世間から評価されるのもわからなくはない。
もしかすると、愛嬌という点では自分よりも上かもしれない、と李子は思う。
この人が、日曜日に家にいるのは珍しい。
そもそも、家で会うこと自体が滅多にない。
「今日は渋谷に行ってたの?」
李子はそれには答えず、別のことを訊いた。
「……今日子さんは?」
「キョンちゃんは、買い忘れたものがあるって、今ちょっと出てるよ」
「――そう」
そのまま背を返そうとして、「モモちゃん!」と呼び止められる。
「その呼び方やめてって言ったじゃん」
睨むと、青年は慌てて「そうだった、李子ちゃん」と言い直した。
「夕ご飯、オムハヤシでいいよね? 好きでしょ?」
「それ、いつの話?」
「えっ? 違った……?」
オムハヤシが好きで毎日食べたがったのは、子供のころの話だ。
今も嫌いというわけではないけれど――この人は、覚えていないのだ。
次は何食べたい? と自分の方から訊いてきたくせに。
それは、2ヶ月前ではあるけれど。
忙しいのは、わかっているけれど。
「別に、なんでもいいし」
ぶっきらぼうに答えて、2階の部屋へ上がる。
「できたら呼ぶね-」
階下から、よく通る父親の声がした。
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