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服を着替えながら、ふとスマホのLINEアプリを開いてみると、確かに「今日は家で夕飯作るからね」とメッセージが入っていた。
「パフェおいしかったね」という早彩からのメッセージにスタンプで返信し、「できたよー」という声にしかたなく階段を降りる。
「おかえり、李子ちゃん」
「ただいま、今日子さん」
食卓には、叔母がもう座っていた。
徹は、「サラダこれね」と李子の前にもガラスの器を置いた。
「立川さんと出かけたんでしょ?」
今日子に尋ねられ、李子は「そう」と言った。
「スイーツ食べ放題のお店。個室になってるから、ずっと喋ってたの」
「へえ、カラオケボックスみたいな感じ?」
「そうだね。内装が宇宙っぽくて変わってた」
「駅の近く?」と徹が訊く。
「……うん」
「へえ、そんなお店あったんだ。あそこはいかにも若者の街って感じだよね。なんだか落ち着かないよ、ボクは」
「何言ってんですか、徹義兄さん、渋谷にいても全然違和感ないでしょうが」
「そうかなあ? 一応オジサンだって自覚はあるし」
違和感はないかもしれないが、人は寄ってくるだろうな、と李子は思う。
「じゃ、いただきまーす」
徹と一緒に今日子も「いただきます」と手を合わせ、李子も小声で倣った。
スプーンで茶色と黄色の2色になったオムハヤシをすくう。
「おいしい?」
心配そうに窺ってくる父に、ためらいつつ頷いた。
「……うん」
「よかった。久しぶりだからどうかなと思って」
徹は嬉しそうに笑った。
「ほんと、義兄さんがいるの、珍しいわね」
「収録が思ったより早く終わったから」
「明日は?」
「早朝からロケだから、2人が寝てる間に出るよ」
「さすが、人気者はせわしないのねえ」
「仕事があるうちが花ってね」
つけっぱなしになっていたテレビで音楽番組が始まり、女性歌手や有名な俳優兼ミュージシャンに続いて「次はMy Precious Boysのお2人です」と司会者が紹介した。
カメラが切り替わり、制服風の衣装で手を振る2人が映し出された。
「あ……」
徹と今日子は何か言いかけたが、李子はリモコンでチャンネルを変えた。
「ドラマ、見たいから」
「そう――」
本当はそれほど見たいわけでもなかったが、このまま音楽番組を見るよりはいいと思った。沈黙が続き、CMになったとき、「李子ちゃん」と徹が口を開いた。
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