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「来週の土曜、予定ある?」
「うん、早彩達と映画に行く約束してる」
すると徹は、あからさまに落胆した様子で「そっか……」とうなだれた。
「その日、何かあるの?」
見かねたらしい今日子が助け船を出すと、徹は「実は、李子ちゃんとお買い物に行こうと思ってたんだけど」とサラダをつつきながら答えた。
「えっ?!」
李子は今日子と同時に声を上げ、危うくオムハヤシライスを喉に詰まらせるところだった。「買い物って……普通に街のお店で?」
ダミーのマンションまで用意して存在をひた隠しにしてきた娘と歩くなんて、できるわけがない。
「それが大丈夫なんだな」
得意げに、徹は顎を上げた。
「この間できた臨海地区のショッピングモールを番組で扱うことになって、まだ普段は開店してない時間帯にロケをやるから、いわば貸し切り状態なんだよね。で、撮影終わってからしばらくそのままにしてくれるように頼んだんだ」
「そんなこと、よくできたね……」
いわゆる「事務所の力」というものなのだろうか。
誰もいないショッピングモールで父親と買い物をするなんて、非現実的でどうもぴんとこない。
でも、限られた時間でも、普通の親子のようなことができるのか――
「ね、マネージャーはもう知ってるからいいとして、番組スタッフの人達には、どう説明するの?」
今日子が、ちら、と李子に視線をやってから問うた。すると、徹は頭を掻いて、
「事情があって普段は会えない妹が、ぜひここで買い物したいと言っているから案内する、ってことにしてもらった」
――ああ、そうか。
李子は、冷めていく自分を感じた。
――また、嘘をつくのだ、この人は。そして、その嘘に荷担しろ、と言っている。
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