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「わたくしは幼い頃、とても活発な子でね、城下町の公園にまで出向いて遊んでいたのよ。勿論、身分は隠してね。
「ある日わたくしは友人に、お使いを頼まれたの。これをどこそこまで届けてっていう話だったわ。
「わたくしは無事、その荷物を届けることができたわ。でもね、ひとつだけ問題があったのよ。
「ネックレス――そう、ルビーがはめ込まれてるこれよ。わたくしは、このネックレスをどこかに落としてしまったことがあったの。今も昔も、わたくしがとても気に入っているネックレスよ。……お祖母様に貰った大切なものなのよ、これって。
「それをなくしてしまったと気付いた時にはもう、辺りは真っ暗だった。わたくしは公園に戻ることもできず、ただ泣きわめいていたわ。
「それから数日後、わたくしは再び公園に向かったの。そしたらそこに、わたくしのネックレスを持った少年がいたの。髪も目も、ビックリするくらいあなたに似てるのよ。
「それで、その少年はわたくしのネックレスを見つけて、ずっと持っていてくれたみたいなの。きっと大事なものだろうからって。彼はわたくしの英雄《ヒーロー》よ。だから、心の中で『英雄』と呼んでいたわ。……ちょっと、笑わないでちょうだい。
「……じゃなくて。とにかくわたくしは、彼の真っ直ぐな瞳に、彼に、恋をしたわ。
「わたくしは何度かその公園に通ってたら、いつの間にか彼と仲良くなってたわ。
「……でも、わたくしは王女。恋を実らせるわけにはいかないのよね。
「彼に別れを告げて、わたくしは王宮から外に出ないことにしたの。そうすれば、もうこの胸の苦しみは味わうことはないだろうからって。
「それから数年越しに、彼から婚約の話があがったのよ。彼もわたくしみたいに、幼い頃は下町の子たちと遊ぶのが好きだった貴族だったのよ。
「わたくしは、王女でも恋が実っていいってことを知ったわ。
「わたくしは今、幸せよ」
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