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「……」
無言でその話を聞いていたヘンゼル。彼の顔は、普段よりも暗い影を落としている。
「……ど、どうしたの?何かあったのかしら?」
「……いえ、何でも。姫様が幸せになれるなら、それがオレの幸せですから」
そうは言っているがヘンゼル、顔が盛大に引きつっているわよ。……口には出せないが。
「……あちこちに散らべても、やっぱり姫様には……」
「……何?」
「いえ、姫様はバカでいらっしゃるなと言っただけです。婚約相手が可哀想に思えてきますね」
「ほ、本当なんなのよ!いい加減になさい!」
「いいじゃないですか、最後くらい」
……そう言われてしまえば、わたくしには断れなくなってしまう。
「……そうね」
わたくしたちはそれから、迎えのメイドが来るまでずっと話し込んでいた。
「……姫様」
ノックの音とともに、メイドの声がする。
「……時間ね」
「えぇ」
彼と別れる時が来た。
わたくしは相手の国に行かなければいけない上、侍従やメイドは連れてこないで欲しいと明言されたため、わたくしはヘンゼルを連れていくことは叶わなかった。
「今までありがとう、ヘンゼル」
「いいえ、こちらこそ楽しかったですよ、姫様」
互いに微笑みあい、わたくしは彼に背を向け――
「あぁ、ひとつ言い忘れていました」
「何かしら?」
「オレさ、姫様のこと諦める気ないから。精々ニセモノと楽しく暮らしてれば?いつか、オレが姫様を攫いに来るからさ」
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