おとしもの

5/6
前へ
/10ページ
次へ
「……」 無言でその話を聞いていたヘンゼル。彼の顔は、普段よりも暗い影を落としている。 「……ど、どうしたの?何かあったのかしら?」 「……いえ、何でも。姫様が幸せになれるなら、それがオレの幸せですから」 そうは言っているがヘンゼル、顔が盛大に引きつっているわよ。……口には出せないが。 「……あちこちに散らべても、やっぱり姫様には……」 「……何?」 「いえ、姫様はバカでいらっしゃるなと言っただけです。婚約相手が可哀想に思えてきますね」 「ほ、本当なんなのよ!いい加減になさい!」 「いいじゃないですか、最後くらい」 ……そう言われてしまえば、わたくしには断れなくなってしまう。 「……そうね」 わたくしたちはそれから、迎えのメイドが来るまでずっと話し込んでいた。 「……姫様」 ノックの音とともに、メイドの声がする。 「……時間ね」 「えぇ」 彼と別れる時が来た。 わたくしは相手の国に行かなければいけない上、侍従やメイドは連れてこないで欲しいと明言されたため、わたくしはヘンゼルを連れていくことは叶わなかった。 「今までありがとう、ヘンゼル」 「いいえ、こちらこそ楽しかったですよ、姫様」 互いに微笑みあい、わたくしは彼に背を向け―― 「あぁ、ひとつ言い忘れていました」 「何かしら?」 「オレさ、姫様のこと諦める気ないから。精々ニセモノと楽しく暮らしてれば?いつか、オレが姫様を攫いに来るからさ」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加