1人が本棚に入れています
本棚に追加
海野町行方岬一ー四。
「この赤い丸のあたりまでお願いします」
「はい、わかりました」
武井はアクセルを踏み込んだ。
駅前から市街地へ、市街地からさらに先へ、黄色地に緑のラインが入ったタクシーは太平洋を臨む閑散とした荒地の上を進んでいく。周囲には幾本もの線が延びていて、不揃いに組まれた煉瓦のように、それでもある程度の規則性を保って交差している。むき出しになった鉄筋や建物の名残のような塊が、かつてこの辺りには住宅街が広がっていたことを主張していた。
武井直人はこの地方都市のタクシードライバーだ。この道を歩んで十年目、この業界的にはまだまだ若手の類に入っているし、実際武井は三十路に突入したばかりだ。
この街でタクシー業を営んでいる者は少ない。そもそもこの街自体が朽ちかけているのだから仕方がない。
「こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、この先にどのようなご用件で?」
武井は客である男に話しかけた。
この先特にこれといったものは何もない。強いて言うなら海があるだけだ。
「いえ、ちょっとした依頼がありましてね」
「依頼?」
「実はですね、私はゴーストバスターなんですよ」
嘘か本当かわからないおどけた口調で客は応えた。
最初のコメントを投稿しよう!