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翌日、武井は驚愕していた。
たった今、二日連続で昼に客が来たのだ。
夜中になるまで駅前で暇を持て余しているだけだった武井にとって、いつ以来のことだろうかもう覚えてもいない。
昨日の胡散臭い男とは違い、女性の客だった。大きな鍔のついた麦わら帽子で隠れて顔はよく見えない。もう秋に入ろうかというシーズンであるのに淡い水色の薄いブラウスを着ているのは少し気になったが大歓迎だ。
行き先を尋ねると、また驚くことに女性は自称ゴーストライターが降りた場所とほぼ同じ場所を示した。パワースポットかなにかなのだろうか。
前日も走った道を、武井の運転するタクシーが駆けてゆく。
「そうだ、最近面白いお客さんがいたんですよ。ゴーストバスターって名乗ってましてね、なんでも心霊現象の専門家らしいんですよ」
昨日を最近に、変な客は面白いお客さんに、小さな嘘を織り交ぜて体裁を整えた話題を繰り出す。
「ゴーストバスター、ですか」
「ほら、この辺りの一部、津波で流れたじゃないですか、だから亡霊が出るんだって。まあ私はそんな非科学的な現象あるわけないと思うんですけどねえ」
津波で流れたことについても、亡霊が出ることについても、特に自称ゴーストバスターは言っていなかったが、大方そんなところだろうと武井は思った。実際、そうした物語を創り出そうと取材にやって来る人々も、少し前までいたからだ。
「ところでお客さんは、本日は何をしにこんなところまで?」
武井がたずねると、女性は少し間をおいて
「お墓参りです」
と答えた。
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