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桜葬送
彼女は桜色に染められた髪にそっと手を入れて、梳いている。
街を歩けば誰もが振り返るようなその色に染めた理由を聞いた事はないけれど、きっと一種の気まぐれなのだろう。
地毛の黒髪が少し見え始めている桜色の髪に、本物の桜の花びらがついていた。
それがなんとも言えず可愛らしく、私は手を伸ばして一枚一枚その花びらをとりたいと思った。
きっと彼女はそれを嫌がらずに、じっと受け入れてくれるだろうけど、私はただ目の前で微笑むだけでそれをしない。
「お前さ、本当に引っ越すの?」
さっきから三度目の同じ質問を受ける。
彼女は男の様な口調で話す。一人称も俺だった。
二十歳になった彼女に、周りは大人げないからそんな口調はやめるように言ったが、私はそれが似合う彼女が大好きだった。
うん、と頷く私に彼女は、あーあつまんねぇと言って私の髪を両手でぐしゃぐしゃとかき回した。
私が笑いながらやめてーと言うと彼女も笑って、引っ越すのなしにしないとやめないと言った。
「しょうがないよ、今実家に住んでるんだからさ。一人暮らしにするのはお金が今は足らないし。大体引っ越すっていっても県内だよ?また会えるって」
そう私が言うと彼女はふてくされた顔をした。
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