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11月の半ば。北風の冷たさが厳しくなってきた頃、オレは競技場の中に身を置いていた。
透き通るような青い空に、柔らかい筋状の雲が流れている。風の動きをそのまま映した自然の芸術だ。
「――きれいだなぁ」
呟きと一緒に白い息が空に向って漂い消えていくのを、ただ眺めた。
一切の現実が、その瞬間は遠のいてしまう。そういった一瞬がオレは好きだった。
「透ー!」
呼ばれる声に現実に引き戻される。振り向けば、見るからに寒そうに体を縮こまらせながら近付いてくる親友の姿があった。
「あれれ、慎吾?」
慎吾は上まできっちりと閉めたジャージの中に顔半分埋めながら、ヨッと片手を上げた。もう片方の手は当然、ポケットの中だ。
「なんで慎吾が来んの?」
きょとんとした顔で見返すと、慎吾はオレを肘でつついて来た。
「果歩づてに聞いたんだけどさ。今日おまえ跳ぶらしいじゃん? 輝かしい二条選手の復活の日! 半年ぶりにおまえのジャンプが見れるとあっちゃ、黙っていられねぇ」
正確には5か月ぶりだけど。
オレは親友の大袈裟な口ぶりに苦笑した。
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