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「まあ、いいけど。それよりも、これ」
愛がぬいぐるみをよいしょ、と抱え上げた。
「これ、さ。どうしてもアンタが要らない、ってんなら、鈴ちゃんにあげたら?」
「え?」
「女の子、こういうの好きでしょ。喜ぶかもよ?」
「あ、いや……」
返事に詰まる。
そんなオレに、愛はたまに見せる姉らしい笑みを向けた。
「いるいらない、は別として、話しのネタぐらいにはなるんじゃないの?」
オレは思わず目を丸くした。
ぬいぐるみを抱きかかえて階段を上がり始めた愛の背中を、戸惑って見上げた。
愛は、オレがずっと鈴と話をしていないことを知っていたんだろうか。そんな話、当たり前だけど愛にしたことはない。
「――透ちゃんの元気がないって、愛、気にしてた」
その場に残っていた美雪ちゃんが言った。
「彼女と喧嘩したみたいだって。いつだったっけな……すっごい大雨の降った日。一人で帰ろうとしてた透ちゃんの彼女、愛が車で送ったんだって。様子がおかしかったから、二人に何かあったんだろうなって、心配してたんだよ」
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