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――鈴を不安にさせたくない。
ずっと、そう思ってきた。
かつて鈴は、死んだ人への想いをどうすることもできないまま、二年間を過ごしていた。オレはそんな鈴を見て、自分が彼女の力になりたいと思った。
でも、実はそれは綺麗ごとでしかなく、オレはただ、鈴に自分の方を見て欲しかっただけなのだ。
死んでしまった浩太ではなく、今目の前にいる自分の方を、もっと好きになって欲しかった。
それは確かに純粋な好意には違いないけど、自分勝手なエゴでしかない。
でも、鈴の涙を見た時……浩太への想いをオレに打ち明け、その感情を爆発させた彼女を見た時、心の底から思ったんだ。
鈴をもう二度とこんなふうに泣かせたくない、と。
鈴を不安にさせたくなかった。鈴の悲しい涙はもう見たくない。
それなのに、今度は自分が怪我をした。
装具のついた足をゆっくりと上げる。今はもう動かすのもそう苦ではない。
傷はどんどん癒えていく。もうそれだけの時間が経った証拠だ。
――自分はいったい何をしていたのだろう。
ため息と共にそんな気持ちが込み上げてくる。
鈴を不安にさせたくなかった。
不安にさせないためには、心配などかけてはいけないと思った。
心配かけないためには笑っていようと思った。
……逆に、それが鈴を不安にさせることだと気付きもせずに。
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