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* * *
その夜、大きなくまのぬいぐるみを見ながら、オレは決意した。
電話をするのに迷いはなかった。これまで何度も躊躇していたのが嘘のようだ。
『もしもし』
その声が聞こえた時、我知らずのうちに大きく息をついていた。ホッとしたのと同時に、ひどく懐しかった。
「鈴ちゃん――オレ」
『……うん』
小さな返事が返ってくる。
それでなお一層ホッとした。そのまま切られることも考えなかった訳ではないから。
こっちの安堵が向こうにも伝わったのか、鈴の方からも小さな吐息が聞こえた。
「あの……久し振り。一カ月ぶり、ぐらいかな」
『……うん』
「元気だった?」
『うん、元気。――透は?』
「元気だよ」
『足は、どう?』
「うん、順調。今はもうほとんど普通に歩いてる、まだ装具付きだけど」
『そっか――良かった』
心底安心したかのような口調に、胸がキュッとなる。心配してくれていたんだと、今さらのように思った。
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