第5話 月あかり

4/26

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
     *     *     *  その夜、大きなくまのぬいぐるみを見ながら、オレは決意した。  電話をするのに迷いはなかった。これまで何度も躊躇していたのが嘘のようだ。 『もしもし』  その声が聞こえた時、我知らずのうちに大きく息をついていた。ホッとしたのと同時に、ひどく懐しかった。 「鈴ちゃん――オレ」 『……うん』  小さな返事が返ってくる。  それでなお一層ホッとした。そのまま切られることも考えなかった訳ではないから。  こっちの安堵が向こうにも伝わったのか、鈴の方からも小さな吐息が聞こえた。 「あの……久し振り。一カ月ぶり、ぐらいかな」 『……うん』 「元気だった?」 『うん、元気。――透は?』 「元気だよ」 『足は、どう?』 「うん、順調。今はもうほとんど普通に歩いてる、まだ装具付きだけど」 『そっか――良かった』  心底安心したかのような口調に、胸がキュッとなる。心配してくれていたんだと、今さらのように思った。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加