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何を話そうと決めて電話したわけではなかった。会話が途切れてしまうと、次の言葉がなかなか出て来ない。
しばらくの間沈黙が流れたけれど、それでも不思議と焦りは感じなかった。
電話の向こうには確かに鈴がいる。
大丈夫。まだ繋がっている。
離れてなんかいない――わけもなくそう思えた。
「……あのさ、ぬいぐるみ好き?」
『――え?』
唐突な問いかけに鈴は面喰ったようだった。
オレも、自分の話の振り方には苦笑がもれた。
愛の言うとおりに、押し付けられたぬいぐるみを「話のネタ」にしてしまっている自分が可笑しくもあった。
「いや、ごめん。愛――姉貴がでっかい『くまのポンさん』のぬいぐるみ貰って来てさ」
『ポンさん?』
初めて鈴の声に笑いが滲んだ。
『でっかいって、どれぐらい?』
「んー、高さは1メートルぐらい? でも問題は幅かな。オレが両腕回しても指先がやっと届くくらい」
鈴がクスクスと笑う。
『それはでっかいね。すごい存在感』
「ホントホント。今オレの部屋にいるんだけど、こいつ、存在感ありすぎて、全然馴染めない。……鈴ちゃん、貰ってくれる?」
一瞬の間の後、鈴からは苦笑交じりの答えが返ってきた。
『……どうしよっかな』
「無理にとは言わないけど。オレ、鈴ちゃんがぬいぐるみ抱いてるとかってイメージが湧かない」
えー? と鈴が心外そうな声を上げた。が、それはすぐに笑いに変わる。
『さすがに見通されてるなぁ』
「あ、やっぱり?」
笑い声が交わった。
その瞬間がたまらなく愛しかった。
失いたくない、と強く思う。
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