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「……え」
すぐには意味が掴めず、目をパチくりとさせた。
いいって、何が? 忘れるのが?
こちらの沈黙に、鈴が小さな声を被せた。
『お祝い……いいよ。あげる』
「――鈴?」
一瞬戸惑って、ついそう窺ってしまう。今、鈴は何て……?
『そ、それとも、冗談、だった――かな』
鈴の消え入りそうな声に、少しずつ頭が働き出した。心臓の拍動がうるさいぐらいに早くなる。
「じょ、冗談じゃないよ! けど――ま、マジで?」
怖いような気がして、恐る恐る確認してみた。鈴が小さく笑いを零した。
『……うん』
そして、今にも消え入りそうな肯定。
思わず身を起こして、両手でギュッと携帯電話を握りしめた。
「し、信じらんね……」
『し、信じ、られないなら、それでも、いいけど……』
鈴のとぎれとぎれの言葉から、彼女の緊張が伝わってきた。そこから、彼女がこの場の勢いからだけじゃなく、ちゃんと考えて応えてくれたのだとわかった。
胸に熱いものがじわじわと込み上げてくる。
「――ありがとう、鈴ちゃん」
思いを込めて言うと、鈴から慌てたような声が上がった。
『でっでも、優勝したら、だよ』
「それはもちろん!」
勢い込んで答えた。
「オレ、絶対優勝するから。今なら地区優勝どころか、世界記録も更新出来そうな気分だ」
『そんな大袈裟な』
ようやく少し落ち着いたような鈴の笑い声が聞こえた。
『頑張ってね』
「うん」
鈴の優しい声に、目を閉じて深く頷いた。
――君が好きだよ。
簡単に言えそうで言えないその言葉を、何度も心の中で繰り返しながら。
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