29人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
* * *
『TELしてどうした?』
涼介さんの問いに、笑って答えた。
「今度会うことになった」
涼介さんが意外そうに目を丸くした。
『こんど? まだ会ってない?』
涼介が意外に思ったのも無理はない。鈴に電話をしたのは、もう何日も前の話だから。オレは小さく肩をすくめてみせた。
「鈴ちゃん――彼女、今親戚の家にいるんだって」
事情を説明しようとして、言うよりも書いた方が早いと気付き、涼介さんからボードを借りた。
鈴が今親戚のいる北海道にいること、それが避暑も兼ねて毎年のことらしいということ、こちらに戻ってくるのは明後日だということ。
オレが書いた文字を読みながら、涼介さんが表情を微かに曇らせた。
『とーる、そんなこともしらなかった?』
「うん、知らなかった。そんな話をする機会もなかったから」
夏休み前はまともに話もできなかったのだ。
鈴が避暑で北海道に行くとか、何も聞いていなかった。
だけど、それを今さらグダグダ言っても仕方がない。オレは気を取り直し、自分に言い聞かせるように言った
「――今度、会ったらいろいろちゃんとしようと思う。これまでのことも、これからどうしたいかも、ちゃんと彼女に話す。ハイジャンのことも、進路のことも……やっとはっきりとした答が見えたから」
それだけのことを考える時間はたっぷりあった。それがここにしばらくの間来ることができなかった理由だ。
オレは逃げるのをやめて、いろんなことをじっくり考えてみたんだ。
前を向いて独り言のように話したオレの言葉が、どれぐらい涼介さんに伝わったのかはわからない。だけど、涼介さんは穏やかな微笑みを浮かべて頷いてくれた。
いまさらながら、自分が涼介さんのいるこの場所を逃げ場所に選んだのか、わかったような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!