第5話 月あかり

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   彼のバスケのプレイスタイルが魅力的だった、もちろんそれも大きな理由の一つではあるけど、それ以上に、涼介さんの持つゆったりとした独特の雰囲気が、オレをこの場に引き寄せた。  どんなにうわべを飾っても、涼介さんにはそれを見透かされてしまうから、オレは自分を取り繕うのをやめた。  ここに来ればありのままの自分でいられる――それがオレには心地良かった。  ここにきて、これまでの自分が、鈴の前でいかに虚勢を張っていたかがわかった。  弱いところを見られたくない。  常に一緒にいて楽しいと思われたい、どんな時にも良く思われたい。  そんなことばかりを意図せずとも考えていたような気がした。  鈴に対する気持ちに嘘がある訳じゃなく、好きだからこその見栄、虚栄心。  そんなものは必要なかったのだと、オレたちとは何の関係もないはずの涼介さんから教えられた気がした。 「……涼介さんって、やっぱり不思議」  余所を向いていた涼介さんだけど、オレの声が微かに届いたのか、振り向いて首を傾げる。その仕草は、涼介さんを実年齢よりもいくらか幼く見せた。思わずクスリと笑みが零れた。 「ホント、不思議な人だね」  涼介さんは複雑そうな表情で、ササッとペンを走らせた。 『どうフシギ?』 「えーっと……うーん、よくわからないけど。あ、決して悪い意味じゃないから!」  涼介さんは不服そうに口を尖らせながら横目で透を睨みつけた。その仕草もまた幼い。  涼介さんが特別にそうなのか、ハンデを持つ人皆がそうなのかはわからないけど、涼介さんは本当に表情が豊かだった。時にひどく大人っぽく見えたり、逆に幼く見えたりするのもそのせいなんだろう。
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