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「こんにちは!」
誰と紹介する前に、愛は涼介さんに向って人懐っこい笑みを向けた。
涼介さんは突然の第三者の登場に戸惑っていたけど、愛の笑顔につられるようにして微笑んだ。
「こんにちは」
答えた涼介さんに、愛の目が微かに見開かれる。一言で涼介さんのハンデがわかったようだった。それでも愛はすぐに笑顔を返すと、オレを肘でつついて見せた。
「お友達?」
「あ、ああ」
涼介さんに負けないくらい愛の登場に戸惑っていたオレだけど、なんとか気を取り直して、涼介さんを愛に紹介した。
「狩野涼介さん。夏休み前に知り合ったんだ。ここでバスケの練習してて、いつも見学させてもらってる」
そして、やはり言わない訳にはいかないだろう。ちらりと涼介さんを見ると、構わないよ、というような目配せが返ってきた。
「……涼介さん、耳が悪いんだ」
「うん、そうなんだね」
愛は意外にあっさり頷くと、涼介さんに向ってぺこりと頭を下げた。そして、驚くべき行動をとったのだ。
「はじめまして。二条愛です、よろしく――と」
両手指を使いながら、ゆっくりとそう話す。
オレは呆気にとられて愛を見つめた。愛の動きは説明されずとも何かわかる。
手話だ。
まさか自分の姉が手話ができるとは思わなかった。ここ数年で一番の驚きかもしれない。
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