第5話 月あかり

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「こんにちは!」  誰と紹介する前に、愛は涼介さんに向って人懐っこい笑みを向けた。  涼介さんは突然の第三者の登場に戸惑っていたけど、愛の笑顔につられるようにして微笑んだ。 「こんにちは」  答えた涼介さんに、愛の目が微かに見開かれる。一言で涼介さんのハンデがわかったようだった。それでも愛はすぐに笑顔を返すと、オレを肘でつついて見せた。 「お友達?」 「あ、ああ」  涼介さんに負けないくらい愛の登場に戸惑っていたオレだけど、なんとか気を取り直して、涼介さんを愛に紹介した。 「狩野涼介さん。夏休み前に知り合ったんだ。ここでバスケの練習してて、いつも見学させてもらってる」  そして、やはり言わない訳にはいかないだろう。ちらりと涼介さんを見ると、構わないよ、というような目配せが返ってきた。 「……涼介さん、耳が悪いんだ」 「うん、そうなんだね」  愛は意外にあっさり頷くと、涼介さんに向ってぺこりと頭を下げた。そして、驚くべき行動をとったのだ。 「はじめまして。二条愛です、よろしく――と」  両手指を使いながら、ゆっくりとそう話す。  オレは呆気にとられて愛を見つめた。愛の動きは説明されずとも何かわかる。  手話だ。  まさか自分の姉が手話ができるとは思わなかった。ここ数年で一番の驚きかもしれない。
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