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驚いたのは涼介さんも同じだったようで、これまで見たこともないほど、びっくりした表情を見せていた。
けど、すぐに我に返ったようで、愛と同じように手話を始めた。
その動きがゆっくりなのは、愛に配慮してだろう。オレは手と同時に動く唇を見ながら、その言葉を予想する。
(手話できるの?)
と言っているようだ。どうやらそれは正しかったようで、愛が「少しだけ」と答えた。
「あいさつ、ぐらいしか出来ない、けど」
これも手を動かしながらである。オレは思わず愛の腕をぐいっと引っ張った。
「おい、手話なんてできたの?」
「だから、少しだけだって」
「なんで?」
愛がニヤリと笑って見せる。
「私、大学のボランティアサークルに入ってるの。手話講習とかもまめに受けてるのよ。アンタ知らなかったっけ?」
「知るかよ」
姉が何のサークルに入ってるだとか、まったく関心を持ったことがなかった。知ってるのは、中学時代に始めたテニスを今でも続けているらしいということぐらいだ。
「でも、実用的にはほとんど使えないと思う。――って、通じてるかな?」
涼介さんは心得たとばかりにオーケーのサインを作って頷いた。
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