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「でも、透と一緒には嫌だけど、私も時々来ていいかな」
思わず姉を振り返る。
「マジで?」
「マジで。――手話、もうちょっと勉強しとくから」
愛の言葉に、涼介さんは小さく何度も頷いた。
『オレでよければおしえる。いつでもどうぞ』
「ほんと? じゃあ、時間のある時に来ようっと。えっとね……」
愛はバッグからスケジュール帳を出し、ペラペラとめくった。
「この日とか……」
言いながら、開いたページを涼介さんにも見えるように体を寄せた。涼介さんがそれを覗きこむ。
一見肩を寄せ合っているように見える二人に、オレはなんとも言えず複雑な気持ちになった。
さっき会ったばかりでなんだろうか、この親しげな雰囲気は。
涼介さんは、自分のことを人見知りするタイプだと言っていたけど、愛に対してまったくそういう感じは見えない。
愛の図々しいほどまでの気安い性格のせいだろうか。愛は涼介さんのハンデにもまったく身構えている気配は感じない。
不快な気はしなかった。
涼介さんが他の人と触れ合っているのを見たことがないせいか、楽しそうに話をする涼介さんを客観的に見るのは新鮮な気がした。
そしてまた、涼介さんと、偏見なしでごく普通に接している自分の姉が少しだけ誇らしくもある。
紹介する手間省けたなと、二人を見ながらオレはひっそりと息を吐いた。
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