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* * *
その日、オレは朝から落ち着かなかった。
鈴との約束の日。
一カ月ぶりに鈴と顔を合わせるのだ、落ち着いてなどいられなかった。
病院の予約が入っていたため、実際に会うのは夕方なのだけど、浮かれた気持ちを抑えることができない。
そして、それはすっかり愛に見通されていたようだ。
「久し振りのデート、楽しみねぇ」
行ってきます、とリビングに顔を覗かせた時、愛にニヤリと笑って言われ、固まってしまった。
「――何で知ってんだよ?」
「あ、やっぱり当たり? だって、透ずっとそわそわしちゃって、わかりやす過ぎー」
バカにされているようで面白くはないけど、反論するのも虚しくなってそっと息をついた。
「彼女と会うのは夕方だよ。今から病院のリハビリだから」
何故いちいち愛に説明してるのか、自分で首を傾げたくなる。それでも、愛には話のネタを提供してもらったという恩を感じるから仕方ない。
愛は呆れたような目をオレに向けた。
「リハビリって。そんな日に会おうとしなくったっていいでしょうに。もっとゆっくり時間のある時にとかさー」
「いいだろ、そんなことはこっちの勝手」
少しでも早く会いたかったから、とはさすがに言えなかった。
鈴がこちらに帰って来たのは昨日のこと。その翌日の今日、会おうと約束した。たとえ夕方からの短時間であっても、またその翌日に会うよりは早く会えるからだ。
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