第1話 晴れ渡る空

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*** 「二条、十五分休憩行って来い!」  跳躍を終え、マットから降りると、コーチから声がかかった。腕でぐいと汗をぬぐいながら「えー」と不満の声を上げる。 「あと一本――」 「好調だからって調子に乗るな。ピークは明後日に持ってこい!」 「……はーい」    肩をすくめながら渋々片手を上げた。  確かにここで無理をすることはない。焦ってがむしゃらになるほど切羽詰まってもいないし。ゆっくり休憩をとるのも大事なことだ、うん。  それでも、後ろ髪を引かれるように、バーを振り返ってみた。  ――跳びたい。  疼くほどのその衝動。吐息でそっと逃がした。  オレが走高跳を始めたのは高校に入ってからだ。中学時代は短距離の選手だったが、コーチからの勧めで走高跳に転向した。特別に短距離に未練はなかったけど、かといって走高跳への転向に抵抗がなかったわけじゃない。それでも、跳べばぐんぐんと成績が伸びた。適性があったのかなと思う。  それを自覚してからは、競技が楽しくなった。跳ぶことを面白いと感じ始めてからは、またいっそう成績が上がった。高校時代の腰掛けではなく、この先も続けていきたいと思うようになった。  でも、今ほど跳ぶことが楽しいと思ったことはない。休憩を惜しむほど、跳び続けていたいと思ったことはなかった。  そう思えるのも鈴のおかげ――そう思うと急に気恥ずかしさのようなものを感じて、一人苦笑した。
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