第5話 月あかり

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「じゃあ、行ってくる。――あ、そうだ」  今度こそ行こうとその場を離れかけて、今度は自分から部屋を覗いて愛に声をかけた。 「愛は今日涼介さんとこ行くんだろ?」  愛が目を丸くした。 「行くけど。何で知ってんの?」 「昨日涼介さんが言ってたから。結構楽しみにしてたみたいだけど」  これはリップサービスだ。  愛もそれはわかったらしく、珍しく苦笑した。 「それは光栄ですこと。――ねえ、透」  少しだけ声に真剣みが帯びる。その顔は、いつになく不安げだ。 「一目惚れって、あると思う?」 「――えっ!」  驚いて、目を瞠った。  愛の口からそういう言葉が出てくるとは思ってもみなかった。  でも、笑い飛ばすようなことではなかった。話の流れからして、愛が涼介さんに、ということなのだろう。 「……あると思うよ」  そう答えると、愛が意外そうな顔をした。 「本当に?」 「うん。だって、オレ経験者だから」  オレは鈴にほとんどが一目惚れだった。  彼女のゴールを見据えた凛とした横顔に、一瞬にして心を奪われた。あの瞬間に感じたときめきや、風の匂いまでもが未だに鮮やかに思い出すことができる。  それは魂に直接埋め込まれたかのような、強烈な感情。  愛は目を丸くしてフッと頬を緩ませた。 「なんだ、そうなの」 「そ。だから、愛も自分の気持ちに自信持っていいんじゃないんですか?」  真面目に言うのは照れ臭いので、わざと冗談めかして言った。  愛がいつものペースを取り戻し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。 「生意気言ってくれるじゃん。――ほら、さっさと行っておいで!」 「へーい、行ってきまーす!」  オレは今度こそその場を離れた。
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