第5話 月あかり

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 間もなく、公園に到着した。  息がいつになく上がっている。運動不足だ、と内心で苦笑しつつ、駐輪場所に自転車を停める。そして、息を整えながら、逸る気持ちで公園へ足を踏み入れた。  鈴は、いた。  いつかオレが座っていた場所で、オレがしていたようにじっと噴水を眺めている。  真っ直ぐに前を見たその横顔に、鼓動が大きく撥ねた。  初めて鈴を見たあの時に、時が戻ったかのような気がした。わけもなく胸が一杯になり、ぐっと奥歯を噛み締めた。  鈴がいて嬉しいはずなのに、泣きたいような気持ちになるのは何故だろう。自分でもわからなかった。  入口のところで立ち尽くしていたオレの方へ、鈴がゆっくりと顔を向けた。オレの姿を確認し、立ち上がる。  しばらくの間、そのままで見つめ合っていた。  オレたちの間を、柔らかな風が通り過ぎていく。
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