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競技場の外周を、ゆっくりと歩いた。
カラカラに乾いた砂交じりの地面を踏みしめる度、ザクザクと小気味いい音がする。
その二人分の音を聞きながら、隣を歩く鈴に視線を向けた。
彼女が自分の隣にいる。そのことが嬉しい。
単純なことだと思う。
会えないと寂しく、会えると嬉しい――それは一番わかりやすい「好き」という気持ちの表れだ。
その嬉しさが大きいほど、自分の中にある「好き」の大きさを実感する。
単純だけれど、それはとても大切なことだ。
「?」
視線を感じたのか、鈴が顔を上げた。どこか困ったような表情で自分と目を合わせる鈴に、笑みを向けた。
「やっぱり」
「……やっぱり?」
「うん。やっぱり気付くんだなと思って」
オレの言葉に、鈴は余計に困惑した表情を浮かべる。オレはさらに笑みを深めた。
「オレが見ると、鈴ちゃんすぐ気付くんだ」
「え?」
「オレが鈴ちゃんに見惚れてたりすると、鈴ちゃんはすぐに気付いて振り返ってくれる」
鈴の頬にサッと朱が差した。そして慌てたように顔を背けた。
「み、見惚れてって……」
「本当だよ」
「いつも綺麗だと思ってた」だとかも言おうと思ったけど、それを言うと、鈴は照れてしまってそれ以上口をきいてくれそうにないし、やめとこう。
オレはそっぽをむいてしまった鈴に笑みを向ける。
さっきまで会話もなく歩いていたけど、ようやく少しだけ緊張が解れた気がする。前と変わらない空気感が戻ってきつつあることに安堵した。
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