第5話 月あかり

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「髪、少し伸びたね」  会った時から気付いていたその変化を口にすると、鈴がようやくオレの方を向いた。その顔はまだ少しだけ赤い。 「うん、なんか切りそびれちゃって。中途半端だし暑いんだけど……」  鈴は風で顔にかかる髪を耳に掛けながら苦笑した。その仕草にまたドキっとしたけど、それもあえて表には出さない。 「伸ばすの?」 「どうしようかなぁ」  鈴は小さく笑って前を向いた。  そのまましばらくまた会話が途切れるけど、そこに前のような硬さはない。  競技場の中からは、練習中の掛け声やホイッスルの音が聞こえてくる。  その音は高い空に吸い込まれるように溶けていく。  オレの胸の中を、熱くなるほどの懐かしさが巡る。つい、また空を見上げた時、「透」と小さく呼び掛けられた。鈴は前を向いたままだった。 「今日、どうしてこの場所にしたの?」  オレも前を向いた。  視線の先に、周囲のものよりも一際大きな木が見えた。  今日会うのにどうしてこの場所を選んだか。もちろん、明確な理由があった。 「ここがオレたちのスタートの場所だから。またここから始めたかった」  オレの答えに、鈴が顔を上げた。  驚いた顔でも意外そうな顔でもない、静かなその表情に、鈴にもそれがわかっていたのだと確信した。  どちらからともなく、向かい合うように立ち止る。 「あの日……オレ達は賭けをした」
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