第5話 月あかり

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「オレ、『たら』『れば』を考えるのはあまり好きじゃないんだ」  鈴を真っ直ぐに見つめた。 「あの時のことに限らず……もしこうなってたら、とか、ああしてれば、とか……全然考えたことがないって言ったら嘘だけど、考えても仕方がないって思ってる。結局、前にある現実は今だけなんだし、それを受け止めるしかないって」  鈴はオレの目を覗き込むようにして聞いていたけど、ふと力が抜けたように微笑んだ。 「透らしい」 「オレらしい?」 「うん。いつも前向きで、真っ直ぐで」  オレは苦く笑った。 「そんなことはない」  謙遜ではなく否定した。 「そう思ってる、ってことと、実際の自分がそうであるかというのは別」  自嘲するように唇を歪めた。 「オレは本当は全然前向きじゃないし、目の前の現実すら、まともに受け止められないんだ」  鈴が怪訝そうに首を傾げる。オレは目を閉じ大きく息を吐くと、改めて鈴に向き直った。 「オレね、鈴ちゃんと会わなかった間、ずっと考えてた。何がいけなかったのだろう、どうしてこうなったんだろう。あの時こうしていたら――あんなことをしなかったら……って、何度も考えた。後悔だらけで、とても前なんか見てられなかった。現実を見れば、思うように動かせない体と先の見えない進路の問題があって、それに加えて鈴ちゃんがいない毎日……前を見るどころか、今を見るのも嫌でさ」  情けなく笑う。 「現実を受け止めるしかない――なんて、ただの理想論だ。そんなに簡単なことじゃない」 「それは……わかる、気がする」  鈴が小さく答えた。
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