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ゆっくりと目を開けて、鈴の瞳を見つめた。鈴は目を逸らさなかった。
真っ直ぐなその眼差しは、初めて彼女を見たあの瞬間と少しも変わらない。一目でオレの心を奪った力強い眼差しだった。
「鈴は、オレの心を動かした」
「え?」
「その時から鈴はオレの中で一番特別で、一番大事な人になった」
鈴が微かに首を傾げる。
彼女にはオレがいつの話をしているかわからないだろう。彼女はその時、まだオレを知りもしなかった。
いつか、オレは慎吾にからかい半分に言ったことがある。
『ちゃんと好きって伝えてるか?』
それを思い出し、つい苦笑が浮かんだ。
オレはいつもそれを鈴に伝えているつもりでいた。誰の前であっても「好き」という気持ちを隠すことなく、態度でそれを現した。
だけど、言葉では? 言葉でそれを伝えたことが何度あっただろう。
想いを伝えた時でさえ、それをちゃんと言葉にはしなかった。
そんな大事なことを忘れていた自分が可笑しかった。
言葉がなくとも伝わることはある。
言葉よりも大事なこともある。
それでも、時によっては、言葉ほど大きな力を発揮するものはないんだ。
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