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「オレ、鈴ちゃんが好きだ」
ありったけの気持ちを込めて口にする。
「今までも、今も、これからも、ずっと鈴だけが好きだ」
鈴は大きく表情を変えなかった。それでも、次第にその目が潤んでいくのがオレにもわかった。
きゅっと引き結んだ唇が小さく震えている。
そして、耐えきれなくなったように、その口許を手で覆った。
「わ、わたし……」
小さな声だった。ともすれば、競技場の中からの声にかき消されそうだ。
「わたし……透に――嫌われたかって……」
「――え?」
鈴は涙をこらえようとしているのだろう、声を詰まらせながら懸命に続けた。
「透が、乗り越えようと――頑張ってるのに――わかってたのに……一方的にこっちの気持ちばかり押し付けた。……だから、もう、透はわたしのことなんて、要らなくなったかなって……わたし、重くて……嫌われたかなって――」
鈴の目からとうとう涙がこぼれた。慌てたように顔を覆って俯いてしまった鈴を見て、これまで彼女が強がっていたことに気付いた。
待ち合わせの場所で久し振りに顔を合わせた時も、鈴はこれまでと変わらない様子でオレを迎えた。
一緒に歩いている時も、鈴からは少しの動揺も感じなかった。
それでも、その心の中は不安でいっぱいだったのだろう。もしかしたら、オレ以上に。
真っ直ぐにオレを見つめていたのは、必死にその不安を隠そうとしていたのかもしれない。
――透はわたしの一番大事な人――
あの言葉を発するのに、どれだけの勇気を振り絞ってくれたのだろう。
オレは鈴に歩み寄り、彼女の体をそっと抱き寄せた。
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