第5話 月あかり

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「オレ、鈴ちゃんが好きだ」  ありったけの気持ちを込めて口にする。 「今までも、今も、これからも、ずっと鈴だけが好きだ」  鈴は大きく表情を変えなかった。それでも、次第にその目が潤んでいくのがオレにもわかった。  きゅっと引き結んだ唇が小さく震えている。  そして、耐えきれなくなったように、その口許を手で覆った。 「わ、わたし……」    小さな声だった。ともすれば、競技場の中からの声にかき消されそうだ。 「わたし……透に――嫌われたかって……」 「――え?」  鈴は涙をこらえようとしているのだろう、声を詰まらせながら懸命に続けた。 「透が、乗り越えようと――頑張ってるのに――わかってたのに……一方的にこっちの気持ちばかり押し付けた。……だから、もう、透はわたしのことなんて、要らなくなったかなって……わたし、重くて……嫌われたかなって――」  鈴の目からとうとう涙がこぼれた。慌てたように顔を覆って俯いてしまった鈴を見て、これまで彼女が強がっていたことに気付いた。  待ち合わせの場所で久し振りに顔を合わせた時も、鈴はこれまでと変わらない様子でオレを迎えた。  一緒に歩いている時も、鈴からは少しの動揺も感じなかった。  それでも、その心の中は不安でいっぱいだったのだろう。もしかしたら、オレ以上に。  真っ直ぐにオレを見つめていたのは、必死にその不安を隠そうとしていたのかもしれない。  ――透はわたしの一番大事な人――  あの言葉を発するのに、どれだけの勇気を振り絞ってくれたのだろう。  オレは鈴に歩み寄り、彼女の体をそっと抱き寄せた。
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