29人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
「透!」
木陰でタオルを顔にかけて横になっていると、突然無遠慮にそのタオルがはがされた。
「……慎吾」
顔を顰めつつ目を開けて、自分を覗きこんでいる顔を確認する。
川島慎吾。同じ陸上部の長距離の選手だ。中学時代からの親友でもある。
「絶好調だな、透」
「おー」
気のない返事をして、体を起こした。木に寄りかかって座ると、慎吾もその隣に並んだ。
慎吾とは三年になってクラスが別れた。部活は同じでも、練習メニューが違うため、最近はゆっくり話をしていない。
「透、昨日自己ベスト更新したんだって? おまえ、今度は良いとこいけるんじゃね?」
そう言われて、フッと唇を歪ませた。
「当然。オレ、優勝狙ってるし」
慎吾が意外そうな顔をする。
「へえ? 透がそんな野心剥き出しにするなんて珍しい。何か心境の変化でもあった?」
「鈴ちゃんと約束したんだよ」
間髪を入れずに答えると、慎吾は一瞬目を丸くし、呆れたように笑った。
「おまえって、本当に鈴ちゃん好きだよなぁ」
「うん。好きだよ」
素直に頷く。訊かれたのが例え慎吾じゃなく他の誰だったとしても、同じように答えたと思う。想いを誰に隠すつもりもなかった。慎吾はそんなオレをよく知っているが、さすがに苦笑いを返されてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!