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「そんなわけないよ」
微かに身を固くした鈴の頭を、自分の胸に押しつけるようにしながらゆっくりと撫でた。
「オレが鈴のことを嫌いになるわけない」
声もなく泣いている鈴が小さく頷いた。オレはより強くその体を抱きしめた。
「不安にさせてごめん。もっと早くに伝えるべきだった」
本当は怪我をする前から、伝えていて当然のことだったのかもしれない。そうしていれば今回のようなすれ違いも起きなかったのかもしれない。
でも、それは今さら考えても仕方のないことだ。大事なのは過去じゃない。
オレは鈴の体を離し、俯いた彼女の顔を覗き込むように首を傾けた。
「鈴ちゃん、またオレと一緒に、同じコースを走ってもらえますか?」
鈴が顔を上げた。瞳は濡れていたけど、もう涙は流れていなかった。
鈴はオレの視線を捉えると、泣き笑いのような微笑みを浮かべた。そして、ゆっくりと大きく頷いた。
「うん。一緒に走ろう」
それは、付き合い始めの告白の時とまったく同じ返事だ。
「……ありがとう」
握手を求めるように差し出された鈴の手を、オレはしっかりと握り締めた。
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