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「ありがとう。今日はお姉さんはお留守?」
「うん。おかげで静かだろ」
今日は頼みもしない世話を焼いてくれる愛は不在だ。変にからかわれることもないし、かなり気楽だ。
その代わりに母親がいるけど、愛とは違い、こちらに余計な首を突っ込んでくることもない。鈴に出すお茶も、自分で持って行きなさい、と言われたぐらいだ。
オレたちは軽く談笑しながら、テーブルの上にノートと参考書を広げた。今日鈴を呼んだもう一つの名目は、受験生らしく勉強だ。
「おお、頑張ってるね、透」
びっしりと文字が書かれたオレのノートを見て、鈴が言った。オレは照れ笑いをしながら肩をすくめる。
「今までやってなかった分、もう必死だから」
オレが一つの目標を定め、そのための勉強に取り組み始めてまだ半月だ。出遅れてるどころの話じゃない。冗談ではなく、オレは必死にやるしかない。
「うん。わたしも負けてらんないな」
鈴は笑みを返し、自身のノートに目を落とした。オレはそんな鈴を見て目を細める。
ふと、切ない気持が込み上げた。
これから先、鈴が行こうとしている道と、自分が目指している道は違う。
こうして同じ机でノートを広げていても、今お互いが勉強していることは、別の道を行くためのものだ。
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