第6話 虹

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 鈴はバッグから何かを取りだした。オレに差し出すように見せたのはある大学のパンフレットだった。 「――!」    思わず目を瞠った。そのパンフレットはオレが第一志望に定めた大学のものだ。 「だから、わたし探した。透が行く道のそばに、わたしが選べる道がないかなって。近くにいたいからって、ただそれだけの理由で同じ大学受けるなんて言ったら、透だって重荷に感じるだろうし、自分でもきっと後悔するってわかってる。だから、自分のやりたいことがそこにあればいいなって」  鈴は中を開き、学部の説明が書いている個所を指差した。 「わたし、ここ受けるから」 「鈴……」 「もともと、わたしがこっちの方向志望してたのは透も知ってるよね。だから、そんなに鞍替えしたわけじゃないんだよ」  言いながら、鈴は違う文字を指差す。透が目指すと告げた学部だ。 「透が受けるここは、わたしには目指す道がなかった。だから、同じ大学だけど、学部は違う。これまでと同じようにはいられないってことももちろんわかってる。それでも、少しでも近くにいたい。だからここ受けることに決めたの。……動悸が不純なのは認める。でも、それでも……」  鈴が初めて自信なさげに言葉を濁らせた。  オレはパンフレットから目を離せないでいた。顔を上げれば潤んだ目を鈴に見られてしまう。  ――泣きそうだった。  鈴がそこまで考えてくれたことが嬉しい。  必死な様子で話す鈴の声の一言一言が、心に響いて沁み入ってくる。  自分ばかりが鈴を想っていたわけじゃないことを、改めて強く感じた。言葉の端々から流れてくる鈴の自分への気持ちに心が震えた。
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