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「迷惑、かな……」
不安そうに落ちてきた呟きに、オレはふと息を吐く。想いが溢れて来て抑えられそうもない。
テーブルの上の鈴の手を、両手でギュッと握りしめた。鈴が驚いたように顔を上げる。その視線を捉えて、オレは言った。
「迷惑なわけないよ。嬉しい――嬉しすぎて、泣きそうだ、オレ」
鈴は表情を崩して笑う。
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ。本当にやばい」
そうは言いながらも、さすがに涙は見せたくない。
潤む目をごまかすように笑って、改めて鈴を見つめた。
「オレさ、怪我した時はスゲーついてないって思ってたけど、今は逆に良かったって思ってる」
「どうして?」
鈴の手を包み込んだ手の力を少しだけ強めた。
「怪我がなくて当たり前に過ごしてきたなら気付けなかったことに、たくさん気付けた気がする。鈴ちゃんのことも、前よりももっと大事に思えるようになった」
強がりではなく、本心でそう思っていた。辛い時間があったぶんだけ、愛しさも増した。
「今……キスしてもいい?」
鈴は一瞬目を丸くしたけど、はにかむように微笑んで頷いた。
「……うん」
目を閉じた鈴に、そっと顔を寄せた。
早まる鼓動と正反対な、どこか穏やかな気持ちが心に満ちていた。
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